“毒”から始まる恋もある
「だったら、とびきり豪華なところがいいわ。どうせ一年に一度あるかないかでしょ?」
「言うと思った。一流ホテルのサービスでも研究しに行こうか」
「いいわね」
「じゃあ予約取っとく。史の目線から見るホテルサービスはどんなもんなのか楽しみだな」
「人を毒舌マシーンのように言わないでしょ」
でも、彼が悪気で言っているわけではないのはわかるので、そんな言い方されても楽しい。
クスクス笑っていると、ギュッと抱きしめられた。
「史は、可愛いよね」
「そんなこと言うの光流だけよ」
そして三十女に対する褒め言葉ではないと思うけど。
「……でも嬉しいからいいわ」
手を伸ばし、彼の首に巻き付ける。
優しく私の背中を撫でていてくれた彼は、小さく唸った後体を離した。
「あーダメだ。やっぱ今日は帰ろうかな。夜に一緒にいると手を出したくなる」
「出せばいいじゃないのよ」
「でもせっかくなら最初くらいイイトコの方がいいでしょ。女の子ってそういうの気にするんじゃないの」
自然に“女の子”扱いされていることが、なんだか嬉しい。
でもね、私はどちらかと言えば肉食系の女な訳で。
「その日はその日で楽しめばいいでしょ。……いい加減にしてちょうだい。これでも、結構寂しかったりしたのよ」
負けじと身を乗り出して、グイグイと攻めていく私。
引かれるかな?
でも黙ってもいられないわ。
後一週間もお預けとかされたらそれこそキレちゃう。
上目遣いで見つめると、光流の顔が肩のところに落ちてくる。
「……ホント可愛いなー。参った」
声が肩をくすぐる。
「そう思うなら……」
「……遠慮せず頂きます」
私の声に続けるように、彼の声が重なる。
と、同時にギュッと抱きしめられて、唇が私の頬や額を抑えていく。