“毒”から始まる恋もある



 そんな訳で、午後七時。私達は【U TA GE】の前に二人で並んでいる。


「ここ? 本当に鍋のお店なんですか?」

「そうね。私も最初はびっくりしたわ」


白い壁に黒い飾り枠の窓。外から見ると洒落たレストランというイメージのこの店は、入ると漂う和風な匂いに一瞬たじろぐ。


「いらっしゃいま……あれ」


やってきた店員はできれば会いたくなかった昨日の数家さんだ。
私を見るとただでさえ笑っていた顔を更に崩す。


「昨日の、……刈谷さまでしたね。いらっしゃいませ」


うげ。
覚えているのかよ。
こういう時は気まずいから気づいても言わないで欲しいんだけど。


「割引券もらったしね?」

「ニ名様ですね。どうぞこちらへ」


数家さんはスマイルを崩さないまま私達をテーブルへと案内する。
いくらスマイル0円とは言え安売りし過ぎじゃないのってくらい。

ふと隣を見ると菫が緊張した面持ちで辺りを見回している。私は肘で菫を小突いた。


「な、なんですか?」

「十名程度の宴会が可能か聞いてみなさいよ」

「でも、……ちょ、ちょっと様子見てから」


でたわ。
どうしてこの子はそう気弱なんだ。

別にいきなり予約するわけでもないし、聞くだけ聞いてみりゃいいじゃないのよ。

< 17 / 177 >

この作品をシェア

pagetop