“毒”から始まる恋もある

上から下までじっくりと男を観察。
背の高さはマル。顔も許容範囲。服装は減点、言動も減点。
トータルポイントで行くと……


「……やめとくわ」

「えー、なんで」

「もう帰るところなの。悪いわね、私、男はスーツ姿が好きなのよ」


まあ決めてはそこじゃないけど。

人のこと“おねーさん”呼ばわりはどうなの。
アンタとそんなに変わらないからね。

男の脇をすり抜けると、鋭く冷たい声が背中に突き刺さった。


「けっ、そんながっついた格好してるくせに。一人で寂しそうだから声かけてやったのによ」

「はぁ?」


振り向いた時には男は背中を向けて歩き出していた。

ムカつく。
パンプス投げつけたろか。

本気で靴に手をかけたところで、思い直して辞めた。

寂しいのは嘘じゃなかったし、がっついた格好しているのも間違いない。

負け惜しみを言えなくなるのが三十歳なのかな。
以前なら、本気でパンプスをぶつける真似事くらいは出来たのに。

年令が再び重く覆いかぶさる。

強がりじゃなく、結婚が全てだとは思ってない。

私には仕事もあるし、経済的には一人で生きていくのも別に困らない。

性格が悪いのも自覚してるし、それが恋愛において妨げになっているのも知ってる。

いわゆる“良妻賢母”に自分がなれるとは思えない。



……それでも、人間には“君がいいよ”と言ってくれる人が必要なんじゃないかしら。


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