“毒”から始まる恋もある


「はい、もしもし?」

『よう、刈谷。谷崎です』


そんなもの声聞けばわかるわよ。


『今日暇? すっかり忘れてたけど、誕生日の時のお金、多すぎたんだ。返すよ』

「はぁ? どんだけ忘れてんのよ、もう月末だっての」

『悪かったって。だから、ついでにおごってやるし』


自分が悪かったって言う割には上からだな。


「悪いけど、今日は予定あるの。明日人総まで持ってきてよ」


冷たい返事をして電話を切ろうとしたら、『ちょっと待て、切るな』と叫ばれる


「なんなのよ」

『用事ってどうせ合コンだろ? 俺も混ざっちゃダメ?』


ムカつくわ、ホントこいつ。


「違います。人のこと合コンマシーンみたいに言わないでくれる」

『だったら他になんの用事あるんだよ』

「試食モニターってやつを頼まれたのよ。というわけで、忙しいから切るわよー」

『なんだよ、試食モニターって怪しいな』

「そんなに怪しそうでもなかったわよ。じゃあそういうことだから」

『あ、刈谷。だったらそのうち予定開けろよ』

「なんなのアンタ、しつこい」

『話があるんだ』


……まさか、こいつ本気で私の事口説いてるのかな。

でも前はそんなことなかったはず。会えば話す程度の普通の同期だった。

変わったとしたらやっぱり、一夜を明かしちゃってからだ。
ってことは体目当てじゃん、冗談じゃないわ。


「話なら会社でして。じゃあね」

『おい、刈谷……』


面倒くさいのでそのまま切る。
これからタダ飯を食べるというのに、すっかり気分が滅入ってしまった。

欲しいのは彼氏。
だけど、それが一晩で終わるようなものや体だけが目当てなものならいらないの。

私は、私がいいと言ってくれる人が欲しいのよ。



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