“毒”から始まる恋もある


 とはいえ、七時半からと言われているのに六時半は流石に早すぎだろうか。
最寄り駅まで来て、私は少し足踏みをしてしまった。

近くのコンビニに入り、雑誌コーナーで立ち読みでもしていよう。

 コンビニはそこそこ混んでいる。お使いに出てきただけといった風に財布だけを持っているOLさんはこれから残業なのだろう。ウコンを買おうとしている彼はこれから飲み会か。雑誌コーナーに沢山いる男性陣はきっと暇な人か待合せか。

 そこに私が入ると、途端に空気が硬くなる。さてはエロ本見てたな。
チラリと視線を流すと、隣の男は背中を向ける。

見られて嫌なら、こんなとこで読むなよ。

とは思うけど、こうぎこちないと居づらい。
ファッション誌を見るつもりだったけど、脇の方へ避けた時に見えたフリーペーパーの地域版を手にとった。
 

「あれ、この店」


まさに今から行こうとしている【U TA GE】だ。

いくつかの飲食店で修行を積んだ店主が「沢山野菜を食べれる、健康的な居酒屋を経営したい」という思いを成就させ、五年前にオープン。西洋風な外装と、和風な食事のアンバランスさがウリの人気店だ、と書かれている。



「……あれがウリだったのか」


私には、どうにもトンチンカンに思えたけれど。

店主の写真も載っている。
四十代くらいの尖った顎と彫りの深さが特徴の男性だ。
でも、店長という割には、最初に行った時もこの間も見た覚えがない。

どっちかといったら数家さんの方が店長かと思ってしまうほどだ。


「まあでも彼じゃ若すぎるか」


目算だけど、数家さんは私より若いだろう。
なのにそう思い込んでしまったのは、彼があまりに上手に采配を振るっていたからだろう。

笑い出したい気持ちが、携帯の着信音に消される。
誰だよ、と覗いてみるとそれは谷崎からだった。

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