“毒”から始まる恋もある
苛立ちと共に進むお酒。
目の前の会話は、既に私の誕生日の話ではなく会社での噂や愚痴へと変わっていく。
「そういえば一課の里中さんさぁ」
同期には営業部が多い。今彼の名前を出したのは営業二課の坂出くん。
ニコニコしていて人に好かれる風貌をしているけど、大概会話で墓穴を掘って嫌われるタイプだ。
「里中さんって前に婚約者と破綻したって話だよね。婚約までしてだよ? 何でも出来るってイメージだけど、案外男としては欠陥あるのかな。今度の子、人総なんでしょ。どうなの、刈谷さん」
私が里中くんに恋をしていたのを営業部の人間が知らないわけ無いと思うんだけど、良くそんなことが聞けるものだわ。無神経ぶりに逆に感心。
さすがに彩音が脇から小突いたけど、坂出くんはキョトンとしている。こういう男をバカっていうのよ。
「アンタが里中くんをけなせるほど出来がいいとは思えないけどね。菫だって、大人しすぎるけど悪い子じゃないわ」
ツン、と返事をしたら隣にいた谷崎が変な顔をした。
「どうしたの刈谷、元気ないじゃん」
「別に、元気よ」
「そうかなぁ。やっぱり寂しいんじゃん? 俺今夜暇だけど、この後どう?」
琥珀色のグラスを傾けながらのセクハラ発言。
酒の席だから許されるっていうのは迷信だからね。覚えてろ。
「やっぱりってなによ」
「だって。刈谷が相手のことけちょんけちょんに言わないなんてあり得ないじゃん。よっぽど落ち込んでいるのかと思って」
まあね。
前はいじめていたこともあるけどね。
里中くんが菫を選んだって知った時はもうキレまくったけどね。