“毒”から始まる恋もある

並んで映画館に入った。
今日やっていたのは、刑事物のテレビドラマの完結編とこてこてのSF映画。それから子供向けのアニメに、貧乏女が作家になりのし上がるサクセス・ストーリー。

この中ならこれかな、と一番最後の作家女の話にした。題名は【Confession book】、日本語では告白本という意味だ。


一言でまとめると、この話はすごかった。

アンナは若くして結婚、男児を一人もうける。
しかし数年も立たずに離婚。
シングルマザーがありつける仕事はそんなになく、生活はいつもカツカツ。
ついにアンナは夜の世界に入る。

けれど社交的でない彼女はここでも輝くことはできず、収入を得るために体を売るはめになる。


そんな中、彼女を気に入ったお客の一人に作家がいた。
アンナも本を読むのは好きだったので彼に憧れた。そして彼の勧めもあり、自分でも物語を書き始める。

口でこそ気持ちを伝えられない彼女は、文章の中では饒舌だった。

不運に満ちた自分の人生を書きつらね、その先の成功を創作して書き上げた。
【Confession book】という題名のその物語はその年の文学新人賞を受賞し、彼女は一気に有名作家となる。


ここまでなら、反吐が出るようなシンデレラ・ストーリー。

この物語がすごかったのはここからだ。

やがて、かつてお客だった作家とアンナは結婚する。

アンナは次々とベストセラーを連発し名声を得るが、男は徐々に変質する。

なけなしのプライドで、彼女の才能を見出したのは俺だと吹聴し、彼女の本を紹介する番組にやたらに出演したが、自身の作品を書くことは辞めた。

書いたら、彼女との才能の差を露呈することになるからだ。


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