“毒”から始まる恋もある



週明け、菫はごきげんだ。
ファイルで笑顔を隠しているつもりだろうが、浮かれた気配は全身からみなぎっている。


「刈谷先輩、大成功でした」

「……なんだっけ」

「やだもう、忘れたんですか。親睦会の話です。【U TA GE】のあの店員さん、凄く気を回してくださって。皆さんに好評でした」

「ああ、数家くん?」

「宜しく言っておいてくださいね」


何故私が。
別に数家くんと私用で話すことなんかないっつーの。


「あそこ、四月半ばくらいから新製品出すんですって。試食食べたけど美味しかったわ。始まったら菫行く?」

「行きたいです」

「じゃあ今度一緒に行きましょ」

「はい!」


うっかり菫を誘っちゃったけど、それにはもれなくあの彼氏がついてくるのかな。

だったら見せびらかすかぁ?
私も吹っ切れたのよってとこみせたいしなぁ。


「ダブルデートにする?」

「え?」

「だーかーらー。私も彼氏出来たのよ」


菫の顔が、ぱあっと晴れ渡った。


「本当ですか! おめでとうございます」

「馬鹿っ、声がでかいわよ」


慌てて菫の口を塞ぐ。
向かいの席にいた舞波くんが何事かと覗きこんできた。


「なんだ、刈谷。おめでたか?」

「んなわけ無いでしょ。おめでたは舞波くんのとこじゃないの」

「なんで知ってるんだよ。まだ誰にも言ってねーのに」

「えーそうなんですか?」


別の女子社員から歓声があがる。
よし、これで騒ぎの中心は舞波くんになったはず。


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