“毒”から始まる恋もある


「菫には内緒ね」

「今の……もしかして」

「そろそろプロポーズしようかと思って。指輪のデザインを頼んでたんだ。そのデザイナーさん」

「……早くない?」


二人が付き合いだしたのは、半年前の話よ?


「待つ理由もないかなと思って。今でも一年後でも一緒なら早いほうがいいでしょ」


アッサリと、さも当然であるかのように言われて、二の句が継げなくなる。

結婚なんて数年付き合って熱が覚めた頃にするものだと思ってた。
激しい愛情が穏やかなものに変わって、いちいちドキドキなんてしなくなる頃に。

それを見極めるのに、みんな数年をかけているのだと思っていたのに。



やがて、菫の方が先に戻ってきた。


「あれ、徳田さんまだですか?」

「うん。忙しい人なのよ」


そう。デートの回数が二週に一度なのも、きっとそのせいだ。
いいわよ。プロポーズでも何でも好きにすりゃいいわ。私は今幸せなんだし、別にアンタ達を羨む理由なんてない。

なのに、なんでこんなに胸がギュッと苦しくなるのだろう。


「すまん、すまん。お待たせ」


サダくんが戻ってきて、再び和やかな会話が始まる。


「こちらデザートになります」


もうお腹一杯というところで、数家くんがやってきた。


「オレンジとレモンのシャーベットです」


お皿に並ぶ二つの小さなシャーベット。
色々食べた口にはさっぱりして美味しい。
……んだけど、むしろ酸っぱいかな。どっちも柑橘系だから、ちょっと寂しいくらいアッサリしてる。
どっちかがバニラだったら最高だっただろうに。


「凄く美味しかったです。刈谷先輩、連れてきてくれてありがとうございます」

「どういたしまして」


一応予約したのは私なのでお金も取りまとめる。

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