“毒”から始まる恋もある


「二人分と、色々手配してもらったぶん。お釣りいらないよ」


里中くんはそう言って一万円札を私に渡した。
こういうことをサッとしちゃうところが、この人のモテる所以だよなぁと思う。

「俺もお釣りいいわ」


立ち上がりがてら、サダくんが差し出したのは五千円札。
飲み物代入れても、これでお会計足りちゃうかもね。


「お会計ですね。刈谷様はモニターですので10%引かせていただきますね」


数家くんもいつもよりは無表情で会計処理をする。

別に対応が悪いわけじゃないけど勘に触るな。
なんかちょっとつまらないんだけど。


「新メニューいかがでした?」

「美味しかったわよ。菫も満足したわよね?」

「はい。とっても」

「ですって。……でも私はデザートは酸っぱすぎたわ」


ポツリと言うと、私も空耳かと思うくらいの小声で、数家くんが呟いた。


「でしょうね」


はい?
酸っぱすぎるの分かってやってた?

次に顔を上げた時、数家くんはいつもの営業スマイルを貼り付けていた。


「またお越しください。本日はありがとうございました」


なんなの?
ホントに、なんか違和感あるんだけど。

でも、追求してる暇などはない。
店を出た後は、流れていく車の波を見ながら、四人で駅までの歩道を歩いた。


「じゃあここで。今日はありがとうございました」


里中くんがいい、菫も頭を下げる。私達も手を振って、ここからは別行動だ。
菫と里中くんは、このままどちらかの家に行くのだろう。


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