SAKURA ~sincerity~
 拓人が少し驚いた様子で近付くと、咲良も驚いた様子で目を見開き、拓人に視線を返してきた。

「あたしたち、誕生日も近くて、年も同じで、字は違うけど名前も同じで……だからなのか、凄く気が合って……」

 いつもの事だが、恥ずかしそうに咲良が言う。

「名前……?」

 拓人が訊き返すと、咲良は桜色に頬を染め、恥ずかしそうにこう言った。

「……はい。良く咲くと書いて"咲良"なんです」

「咲良……」

 咲良の名前を知った拓人が正直に驚きを表情に出した。不思議な事に咲良の前では、拓人はいつもののポーカーフェイスができなかった。

「はい。だからあたしたち、いつも苗字で呼び合ってたんです。何だか恥ずかしいし、紛らわしいし……」

『看護師の椎名さん』

 いつだったか、病室で楽しそうに会話していた二人の声か拓人の胸に蘇る。咲良は桜の墓を見つめ、それから鮮やかに透き通る天井のブルーを見上げた。

「あたし、ワシントンで生まれたんです。父親の仕事の関係で小学校卒業までワシントンにいました。桜がとても綺麗だと、両親がよく話してくれました。あまりに綺麗に咲くので、あたしの名前を"咲良"にしたと――」

『あたしが生まれた日、産院近くの桜並木が暖冬で早咲きして、ちょうど満開で凄く綺麗だったんだって――』

 名前の由来まで、似てるんだ……。

「ごめんなさい、こんな話……」

 突然、咲良が謝ってくる。「あの……失礼します」

 拓人に頭を下げ、咲良が横を通り過ぎようとする。と、その瞬間、拓人は強い衝動にかられ、まるでその衝動に突き動かされるように、咲良を振り返った。

「また……逢えるかな?」

 拓人の突然の言葉に立ち止まり、驚いた顔で咲良が拓人を見つめ返す。

「また……逢いたい」

 拓人は衝動に身を任せ、咲良にそう言った――。




「俺、教師辞めようと思うんだ……」

 二人で桜を見上げながら、静かに拓人が言った。

「え……? でも……」咲良が戸惑った顔で訊き返す。

「教師は桜ちゃんと二人で目指した夢じゃ……」

「うん」拓人はジャケットのポケットに両手を突っ込み、少し考え込むように小さくうなった。

「大学時代、ずっとバイトしてた店のマスターに、戻って来ないかって言われたんだ。俺の作るカクテル、人気あったみたいで……」
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