エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
なんで私は、善の穏やかな笑顔を見て、「大丈夫だ」と思ってるんだろう。
なんで、服越しでもよく分かる、善の逞しいガタイを目の前にして、「守られてる」なんて思ってるんだろう。

左の薬指の、結婚指輪の位置を、善から指で何度かなぞられただけで、なんで私は・・・その温もりにジンジンしながら・・・安心しているんだろう。

「仕事終わったらメール送る。たぶん遅くなるから寝てていいよ」
「いや、あの・・」と言いよどむ私に、善はグッと近寄ると、「これも練習だと思って」と、秀一郎に聞かれないように、小声で言った。

「う・・・ん。じゃ、気をつけてね」
「アキちゃんも」
「うん」
「秀」
「なに?」

今度は私に聞かれたくないのか。
善は秀一郎の耳にコショコショと囁くと、秀一郎はニッコリ笑って「ありがと」と言った。
そしてグーにした手を合わせあう。

・・・こういうの、お父さんとお兄ちゃんもよくやってた・・・。

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