エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
「僕、善さんがお父さんでよかったって思う。でも、お父さんがいるって急に分かっても、なんか・・・実感がわかないから、まだ善さんのこと、“お父さん”って呼べない」
「そうよね。それでいいとお母さんは思うよ」
「善さんもそう言った。あと、“呼びたくなったらいつでも呼んでいい”って」
「うん」
「僕・・・善さんに会いに行ったのは、誕生日も教えたかったから」
「あ・・・」
「プレゼントがほしいからじゃなくて」
「うん、分かってるよ」
「善さんのおかげで、僕は明日11歳になれるよって言いたかったんだ」

秀一郎は、一時的に「死」を間近に感じたことで、「生きること」を、より真剣に考えるようになったようだ。
病気は、秀一郎から幼い子ども心を奪った代わりに、元気に生きる力を再び与えてくれた。

目にじわっと涙が浮かんだ私は、涙で視界がくもらないよう、何度か瞬きをすると、泣く代わりに車のハンドルをギュッと握った。

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