一ノ瀬さん家の家庭事情。
話したいのに、話せないんだ。

それにね、よく見かけるようになった。

教室内でも浅丘君と樹里ちゃんが話してるところ。

今だって、樹里ちゃんが浅丘君の席に行ってなにか楽しそうに話している。

浅丘君も樹里ちゃんと話してるとき、楽しそう。

樹里ちゃんは女子バスケ部に入ってて、あたしなんかよりもずっとずっと、バスケのことわかってるし…

あたしなんてりっちゃんに言われてバスケ部のマネージャーやってるんだもん…

でも自分なりに何とか役に立とうって頑張ってきたつもりなんだけどな。

「一ノ瀬、あのさ…」

「ん？なあに？」

さっきまでノートに向かっていた久住君がシャーペンを持つ手を止めて、顔を上げた。

「聡太と、なんかあった？」

なにか、…ううん。

何もないんだ。

だからどうしたらいいのか、わからない。

「ゆーだい！」

二人の間に流れた沈黙を破った明るい声。

その声は文化祭が終わってひと安心したからかテンションが最近高めの葉ちゃん。
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