HALF MOON STORY


ライブの終わったあと、酔った彼から


電話がきた


明日東京で仕事が急に決まったから


今日は帰れないって


嬉しそうな彼の声


今も憶えている


酔って舌足らずな彼の言葉と


電話の向こうの、楽しそうな話声


雑音


彼をからかう声の後、彼がこう言った



俺、CD作るのに参加することになった



なんだか自分まで参加できるみたいに感じた



二人で声上げて喜んだ



あなたの幸せを、一緒に感じることが


できたこと


すごく嬉しかった



あなたの幸せそうな声、聞かせてくれたこと


もっと嬉しかった



それだけでもう十分で


次の日


昼の休憩中に電話が掛かってきて


今週は帰れなくなったって聞いたって


全然平気だった



初めての彼の仕事が、失敗する方が怖かった



あなたの悲しむ顔を見るのが一番つらい



あなたにはいつも笑顔でいて欲しい



笑顔でいつも



夢を追いかけていて欲しい



その笑顔を見るのが


私のひそかな楽しみだったから




そんな気持ちしかなかった



今までは


どんなにお互い忙しくても


川の向こうのあの部屋に


彼はいた




そして


出逢ってからずっと



隣にあなたがいることが


当たり前だったからだ



ところが



東京に行ってから



あれよあれよと



ひと月がたち



ふた月が経ってしまった




自分も仕事が忙しく




休みも日曜日だけで



帰宅も十時だったりした時もあったから



仕方がないんだけど









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