勿忘草~君を想った3年間~
君との出会い
「君の好きな花は何?」

入学式の日、俺はある一人の少女に出会った。

「はい!これあげる!…君にたくさんの幸せが訪れますように♪」

…そう、手渡された四つ葉のクローバー。
そして儚いくらい美しい彼女の笑顔を今でもはっきりと、覚えている。


4月1日。
俺は花桜歌学園に入学した。
幼なじみの岸野颯人(きしのはやと)と一緒に、校門から入ってすぐにある、桜並木をゆっくり歩く。

「なあ、碧」

「ん?」

「俺、女の子にLINE聞いてくるからさ、先いってて笑」

……またか、……正直こうなるだろうと予想ははしていた。小さい頃から颯人は女の子が好きだった。

茶髪のさらさらヘアにぴんくのアメピン。リングのピアスに、猫耳パーカーをブレザーのかわりに、着ている。どちらかと言うと、かわいい系男子だ。

「了解、早く来いよー」

「おう!」

女の子の中に消えていく颯人を見送りながら、先に校舎へと向かった。
下駄箱の前には、クラスがのっているプリントがあった。
確認すると俺は1年2組だった。俺は自分の出席番号のところに、靴を置き自分の教室へと歩く。

ドアを開けると、半分以上の人が椅子に座っていた。黒板には、『入学おめでとうございます!』の文字と、席順が書かれていた。俺の席は、ラッキーなことに、一番後ろだった。

荷物を机の横にさげ、暇になった俺は、ずーっと、ぼんやり窓の外をながめていた。

数分後。チャイムぎりぎりに、颯人が入ってきた。

「やばいっ、遅れるかと思ったぁ」

「遅れなくてよかったな」

周りを見渡すと、誰も立っている人はいなく、本を読んだり、スマホをいじったりしていた。

そんな中、誰も座っていない机が隣にポツーンと、置いてあった。
もう、チャイムがなり、入学式が始まるというのに、来る様子が全くない。

数分後。チャイムと同時に、担任らしき人が入ってきた。

「今日から、1年2組の担任になる、大友康平(おおともこうへい)だ。
この学校に来てから4年目になる!分からないことがあったら、いつでも聞け!」

担任の大友先生は、三十代前半のおっさんだった。少し太った体型に、少しきつそうな、黒のスーツを着ていた。

「では、体育館に移動する前に、出席の確認をとる」


次々と名前が呼ばれ、

「工藤 碧(くどう あおい)」

「はい」

一言小さな声で返事をした。

「ねぇ、あの人かっこよくない?」

小さい頃から変わらない、女子の黄色い声に、少し鬱陶しいと思いながら、
作り笑いをすると、頬を赤らめ、また女子の、ひそひそ話が始まった。

「長谷川 空!」

響く担任の声。だけど返事は返ってこない。
きっと、隣のやつだろう。結局まだ来ていなかった。

「遅刻っと……。」

出席簿に、書き込みしていく。

「よし、じゃあ体育館に移動するぞ!」

出席番号順に並び、アナウンスの合図で、俺たちは体育館へと向かった。

入場すると、親や先生たちが大きな拍手で祝福してくれている。
紅白で彩られた道を、ゆっくりと歩き、
自分の指定された、パイプ椅子に腰を掛けた。

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!……」

長い校長の話が始まり、心底どうでもよかった俺は、ボーッとしていた。

周りは緊張して、背筋を伸ばし固まっているやつもいれば、俺と同じくだるいのか、姿勢を崩し、寝ているやつもいた。

「結局、碧の隣の子、来なかったな…」

颯人も飽きたのか、小さい声で俺に話しかけてくる。

どんな人か分からないが、入学式で遅れてくるとは、とても勇気があるやつだなーと思った。

「1年2組、退場」

結局、ボーッとしているうちに、入学式は終わっていた。
教室に入ると、学校の紹介が軽くされただけで、ホームルームは終わった。

「碧ー、帰ろーぜ」

颯人がスクールバックをぶら下げて、こっちを見る。
そんな、颯人を何人か顔を赤らめて見る女子。
そのうちの一人が、話しかけてきた。

「あのっ、颯人くん、よかったら一緒に帰らない?///」

目がパッチリしていて、ふわふわロングの少女が、恥ずかしそうにしていた。

「ん?別にいいよー!俺、可愛い子大好きだし♪」

無邪気に笑う颯人の顔に、ますます少女は顔を真っ赤にする。

「っと、いうことで、俺この子と帰るからさ!じゃーな、碧ー!」

「おー」

俺は帰る準備を始める。
颯人が帰った後、女の子達に、帰ろうと誘われたが断った。

正直言うと、俺は女が苦手。
一人が好きだし、うるさいのは苦手。

だから、女の子とは、必要以上に関わらなかった。

「さて、俺も帰るかな」

下駄箱に着き、外靴に履き替えて桜並木を歩いていると、一番端の桜の下で、腰を掛けている、少女がいた。

気になって、近づくと

………、


俺はビックリした。

そこにいたのは、誰もが声を揃えて言うほどの美人だった。

大きくて澄んだ目に、艶々の唇。
色白くて、腰まである綺麗な髪を、横で軽く二つに結んである。

髪には青色の小さな花の髪飾りがついていた。

……。赤色の、リボン……。
俺と同じ、一年生……。

この学校は、学年で色が違う。
一年は赤。二年は青。三年は緑。

赤をつけていると言うことは、この子も一年なんだろう。

だけど、さっきの入学式に、こんな美人はいなかった。

いたら、すぐに美人がいると言う、噂が広まったと思う。

彼女の顔を覗きこもうとしたら、小さな口が空いた。

「君も私と同じ一年生?」

「あっ、うん。」

予想通りの可愛い声だった。


「ねえ、君の好きな花は何?」

突然言われた質問に花のことをよく分からなかった俺は、目の前にあった、桜を指差した。

「へえー!桜が好きなんだ!」

優しく微笑む少女。

「あっ、そうだ、さっきこれ見つけたの!」

手に持っていたのは、四つ葉のクローバーだった。

「はい!これあげる!…君にたくさんの幸せが訪れますように!」


ドキッ

美しい顔で微笑まれた笑顔は、儚いくらい綺麗だった。

「あっ、そうだ!名前聞いてもいい?」

「あっ、工藤 碧です」

「碧くんね!宜しく!私の名前はー」

……聞いた瞬間、俺の思考回路は停止した。

「1年2組、長谷川 空!仲良くしてね!」

美人の少女は俺のクラスメイト。
そして、隣の席。

初めての感覚に戸惑いながら、さっき微笑まれた長谷川さんの顔と、今手にしている、四つ葉のクローバーを、俺は忘れられなかった。


小さく高鳴る鼓動。
ほんのり熱くなる頬。
きっと、俺は、この時から長谷川 空を好きになっていた。


でも、このときの俺は、何も知らなかった。






この恋がとても苦しいこと。








君が俺の側から消えてしまうこと。









初めての抱いた感情は、











儚いくらい切なかった。
















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