銀座のホステスには、秘密がある
作戦
数日後、滅多にかけない営業の電話を、殿にかけてみた。

「この前は先に帰ってしまい、ごめんなさい」
『ええよ。サラのヤキモチは可愛いなぁ』
「ヤキモチ?」
『うん。妬いてくれたんだろ?ごめんなぁ』
「……じゃ、お店に来てくれたら許します」
『行く行く。今日、接待があるから絶対行くからな』
「ほんと?嬉しい。待ってますね」

通話の終わったスマホをジッと見つめてた。
殿の軽いノリに無駄に喜ばないようにしよう。
「嬉しい」なんて言葉、営業で何度も言ってるのに、
うっかり本心で言ってしまった。

ううん。これは演技だから……

「さぁ、忙しくなるわよー」

何か良い作戦がある訳じゃない。
来てもらって、普通の営業やってたって殿と彩乃の仲は変わらない気がする。
アフタ―で二人っきりにしてみるか……

「……ラ、サラ」
すぐ近くで聞こえた樹里の声に思いっきりビクッてなった。
「あぁ。樹里、どうしたの?」
「サラ。今の顔ヤバいよ。ここにくっきりシワ寄ってた」
樹里が指したのは目と目の間。

「やだぁ」
中指でこすってシワを取ってると、樹里が隣で笑ってた。

「悩み事?」
「うん。まぁね」
「仕事?」
「うーん。半分」
「聞こうか?」
「んー。まだいいかも」
「そう」
「うん。本当に助けて欲しかったら言う」
「分かった。あんまり一人で抱え込まないでよ」
「いいね。樹里、お母さんみたい」

「バカ言わないでよ」って半笑いで去っていった樹里と、入れ違うようにして彩乃がメイクルームに戻ってきた。

「彩乃さん」
「はい」
「今日、上杉様たちいらっしゃるから」
「はい。わかりました」
「分かってないよ。いい?なんとかしてあの娘のとこから上杉様を取り戻すのよ」
「え?どういうことですか?」
「グリッターのあの唇が厚い娘よ。あんな娘より絶対彩乃の方がいいってアタシも思う」
「えっ……私?……」
「まだ何もプランがないんだけど、アタシが何とかするから、彩乃は上杉様に喜んでいただくことだけ考えてて」
「あっ、あの……」
もうほっぺたが赤くなってる。
これは計算してもやれない。
ここがアタシとこの娘の違いなのね。

少し寂しく思う。
アタシももう少し背が低かったら、もっと可愛く見えたんだろうか……

「じゃ、頑張りましょう」

それは自分に言い聞かせた言葉。
アタシは彩乃を応援するって決めたんだから
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