あと一歩の勇気を―君が全てを失ったあの日、僕らは一体何ができただろうか―


「……辛いなら我慢しないでね?」
「……」


聞こえているはずなのに聞いていないようなふりをされても、朱は構わなかった。だってあの夕暮れ時の病室でもそうだったから。

あの後、秀俊は必死にリハビリを積み重ねて医者も驚くくらいの回復力を見せて復活した。もうバスケや他の激しい動きをするスポーツは出来ないと思われていたのに、すっかり元通りだと言わせたほど。
医者からの御墨付きをもらって退院してからもう二ヶ月近く経っている。つまり、彼はもうずっと前からバスケが出来る状態に戻っているのだ。なのに彼はバスケをしようとしない。たまに見かけるバスケをしている人々を羨ましそうに眺めたりして突然目が覚めたかのようにその光景から逃げるように目を逸らす。ここ最近ずっとそんな事ばかり。

何故秀俊がバスケをしないのか理由は知らない。けれど、とにかくバスケと関わらないようにしていると言うのは見ていて直ぐに分かった。
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