Fly*Flying*MoonLight

PM11:15 それぞれの部屋

 窓から洩れる月明かりに、水晶の薔薇をかざす。花びらの一つ一つに、月の魔力が宿る。

 綺麗……。

 枕元に水晶の薔薇を置く。ベッドにもぐりこんで、今日の出来事を思い返した。

 和也さん……武田様と何か、あったのかなあ……。
 あの方の悪意、は本物だった。それに……私を見て、とても怯えて……。

 上掛けを引っ張り上げる。

 ……よく……わからないけど……。

 いじわるでドSで我がままな人、だけど。

 ……和也さんを、守ってあげたい。

 その気持ちは、本物だった。

 だから……自分に出来る限り……頑張ろう……

 ――私はゆっくりと、夢の中へと入って行った……。

***

 ……武田の叔父に会うと、いつも眠れなくなる。『あの時』の悪夢、に襲われるから。

 ……のはず、なんだが……。

(別の意味で、眠れなくなりそうだ……)
 俺はベッドに寝転がって、天井を見ていた。

 本当にうれしそうに、笑った。……初めて見た、楓の本当の笑顔。

 ……正直、ここまで胸にくる、とは思わなかった。
 それに比べたら、叔父のあの目つきなど、どうでも良くなった。

『物静かで、優しくて、博学で、芯が強くて……』
 それが、楓の理想の男性。
 ……もういない、しかも祖父、に嫉妬してどうする。敵うわけないだろうが。
 俺は自嘲気味に笑い、目を瞑った。
 
 ……叔父が来た時、真っ先に心に浮かんだのが、楓だった。楓を呼んでほしい、と伶子に頼んだ。伶子は何も聞かずに、そうしてくれた。
 楓は……ただ、そこにいてくれた。
 それだけで……

『悪意を祓いました』
 叔父の悪意は、今に始まった事じゃない。そう……『あの時』も。
(楓を見た時の……あいつの、顔)
 思わず、歯をくいしばった。

 やはり……『あの時』、『彼女』を……

 ……殺そうと、していたのか。俺と共に。

 ふっと、薔薇の香りが漂ってきた。過去に捕らわそうになった心が、戻って来る。
 悪夢が……消えて行く……。

 この家にいて……よかった。
 家とも呼べなかった、あの部屋だったなら、いつまでたっても、過去に捕らわれたまま。

 ……楓……
 楓の笑顔を思い出すと、……胸が温かくなった。

 ……喜んでくれて、よかった……本当、に……

 ……次第に、俺の意識はぼんやりと薄れていった……。
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