Fly*Flying*MoonLight
どこかの、新月

PM10:00 ???

「……ったく、あのじじいがっ……!」
 グラスを持つ手に力が入る。ウィスキーの氷は半分以上溶けていた。

『……お前には、荷が重すぎる。それはお前も分かっておろう』
『今までお前が貢献してくれて事も、充分理解しておる。じゃがな……』

 勝手に家を飛び出したあげく、何処の馬の骨とも分からん男と駆け落ちした姉。
 気に食わなかった。自由気ままに生きているくせに、澄ました顔で何でもこなしていく姉が。

 ……死んだ、と聞いた時、正直清々した。

 それが……

「わざわざ、あんな女の息子を探して、後を継がせる、などとっ……!」

 両親を目の前で失い、言葉を失った少年。

 そう……あのガキは、こちらの手の内にある。あのまま死ねばよかったのに。

 不穏な笑みが浮かんだ。

 口のきけない子供がどうなろうと、誰にもわからない。
 あの世で家族揃って暮らすのが、幸せというものだ。

 ちょうど、訳のわからん小娘が迷い込んで来ている。あれが、ガキを誘拐し、追いつめられて凶行に及んだ、ということにすればいい。
 使用人も帰した。ここにいるのは、私と……小娘、そしてあのガキだけだ。

 月のない、暗く淀んだ空。まるで台風の様な風。嵐の前兆。

 ……狂気の夜。

 さあ……始める、か……。
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