シークレットガール!【完】



***


ピシャリ。扉が閉まる。


「春だなぁ………」


また外を眺めながら、同じことを呟いた。


「ずっと、寝てよっかなー。昨日なかなかハードだったしー」


よし、そうしよう。あたしは熊のごとく冬眠しよう。


と、決意した時、また扉が開いた。


そこにいた人物を見て、ちぇっと心の中でしたうちをした。


「美沙ちゃんは冬眠をするので、対応できませんので、お引き取り願います」


「あら。そうなの?じゃあ、無理矢理にでも起こしてあげなきゃ」


フフフ、と彼女は上品に笑う。


「鈴村さーん。そこは、お引き取りします、でしょー?もうもう、ほんと鈴村さんはギャグのセンスがナンセンス」


「その言葉、そっくり返すわよ。センスがナンセンスの方が寒いわよ」


彼女の塩対応には、もう慣れた。


なんちゃって美沙ちゃんだしね。なんちゃって天才的美沙ちゃんだからね。


彼女、通称ロボクールオバサン(37)は、あたしのギャグ発表時も丁寧に仕事をテキパキとこなしていた。


彼女に似ている人は?と聞かれたら、あたしは『ミタさんです』と即答するだろう。


三田さんとは、かなり前に流行ったドラマの家政婦さんである。


気付かなかったそこの貴方。


時代遅れッスね。流行に前衛的なあたしを見習いたまえ。


と優季に言ったら、


『黙れ。クソ時代遅れ』


と罵倒アルファーデコピンで返されたのは、記憶に新しい。


「鈴村さん」


「何?美沙ちゃん」


「それ。少し見直したいから、昼くらい相談に乗ってくれない?」


彼女は豆鉄砲を食らったような表情をしてから、赤に塗られた唇の端を緩やかに上げた。


「命乞い?」


毒舌だなオイ。


「まぁ、そんなトコですかね」


否定するにも事実だから素直に認めると、彼女は少し嬉しそうに目尻を垂らした。


「嬉しいわ」




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