君色に染まれ
祐希奈は今までに味わったことのない感情に支配された。

胸の鼓動が鳴り止まない。

私いったいどうしたんだろう。

坂巻の熱い眼差しに完全に心奪われてしまった。

周りに悟られないよう必死に平静を装った。


家に帰って祐希奈はベッドに横になった。
あのドキドキは一体なんやろう。

坂巻は私にとって単なる先輩な訳やし。
考えれば考えるほど分からなくなる祐希奈であった。

「祐希奈 お風呂さき入り」
母の高い声が響いた。

さあお風呂でも入ろうかな。
祐希奈は日常に戻ろうと切り替えた。


「いらっしゃいませ」
ビアガーデンのオープン初日。
祐希奈はドキドキしていた。
初めてお客さんを前に緊張していた。

「皆さんリラックスして行きましょう。失敗を恐れず笑顔で接客です。」
支配人は新人に激を飛ばした。


美月も少し緊張しているようだった。

祐希奈は美月に声をかけたくなったが、団体客が目の前に現れて機会を逃した。
いらっしゃいませ。こちらのテーブルになります。

祐希奈は声がうわづっていた。

坂巻は少し離れたところから新人を見守っていた。

支配人は坂巻に何か話した。
坂巻はにこやかに笑いながら支配人を見た。

夕方なのに人がわんさか来た。

大忙しの中、祐希奈はビールを手にしていた。精一杯の笑顔で客にビールを出した。

美月も一生懸命注文を聞いた。

怒涛の二時間が過ぎた。

客は少し落ち着いて来た。

坂巻もほっとしているようだった。

祐希奈はテーブルを見回し、下げる皿がないか見ていた。

ガチャン!

ガラスが割れた音がした。

「申し訳ありません。すぐに取り替えますので。」
新人の伊藤紗英だった。

祐希奈はすかさずフォローに入った。

坂巻も近くまで来て他のスタッフに指示を出していた。


怒涛の1日が終わった。

祐希奈も美月も話す余裕がなかった。

「お疲れ様。」
美月は半分笑いながら祐希奈に話しかけた。

お疲れ様。忙しかったね。ジョッキ持ち過ぎて手首痛いわ。
「ここまでハードだとは思わんかったね。」
美月は誘った手前申し訳なさそうだった。

まあ初日だからね。日曜日だったし。

祐希奈と美月は私服に着替えて帰ろうとしていた。

「お疲れ様。」
坂巻が声を掛けた。
祐希奈は嬉しかった。
< 5 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop