MAHOU屋
デビルはドアノブに手をかけて、開けた。
チヒロの背中に気持ち悪い汗が流れている。
その背中をデビルはそっと押し、中に入らせる。

一度も入ったことのない、ばあさまの部屋、封印されていた魔女の部屋。
身体が震えるというよりも、前後に大きく揺れだす。
まるでなにかのハードな音楽に合わせるように揺れるみたいだ。
そのリズムは自分で作ったものではないから、恐くて恐くて仕方がない。
思わず振り返って、デビルに抱きついてしまう。
デビルはチヒロを軽がる抱っこしてくれた。


「お前のばーさんは、曲者でさぁ。まあ、元祖魔女だったわけだけど、身体が弱い人で、よくここから外を見てたよ」


恐る恐る薄目を開ける。
この部屋はチヒロの通う木造校舎みたいに濃い茶色に囲まれていて、図書室みたいに本がたくさんある。
その本はどれも部屋と同化したみたいに古めかしい色をしている。
その中で、唯一白く光るような本は、「魔女のおかしやさん」シリーズの本だ。


「窓、ないよ?」


電気をつけなかったら、真っ暗に違いないと思う。


「塞いじゃったんだよ、本が置ききれなくて」
「よく知ってるね」
「全部聞きかじり。俺がこの部屋はいるの、人生で二度目くらいだしな」
「恐くないの?」
「俺は郵便屋さんになったから平気」


チヒロの中でいくつもの疑問が浮かんでくるけれど、声として出すのは難しい。
デビルに守ってもらっていても、気を抜くと身体が左右に大きく揺れだす。
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