デスサイズ
2年A組 教室内
朝礼が始まっておらず、賑やかな会話が響いている教室に、ガラガラと扉を開いて入る黒斗。
「あっれえ? 今日は月影だけ?」
入口側の席に座っている同級生の内河 松男(うちかわ まつお)が底意地の悪そうな笑みを浮かべて、黒斗を見る。
「橘はどうしたんだ?」
「…………」
「ハハア、そうかそうか。遂に橘に愛想尽かされたんだな」
黒斗の無言を都合よく解釈した内河は、勝ち誇ったように頷く。
「邪魔な月影さえ消えれば、橘が俺の女になるのも時間の問題だな」
内河が鈴に好意を抱いていることは、本人は秘密にしているつもりだがクラスメート全員にバレている。
彼は思ったことを無意識に口に出してしまう癖があり、良くも悪くも嘘がつけない人間なのだ。
「どうでもいいが、また言葉に出てるぞ」
ニタニタと不気味に笑う内河にツッコミを入れるが、全く耳に入っていない。
無視して黒斗が席につくと、見計らったかのように担任の佐々木が出席簿を持って入ってきた。
「はい、静かにー! 席につきなさーい」
パン、パンと手を鳴らして静かにさせ、朝礼をすませる。
「今日は橘さんが体調不良でお休みですので、そこの所、宜しくお願いしますね」
鈴が体調不良と聞いて、生徒達はそれぞれ「風邪、大丈夫かな」「いつも元気な橘が珍しいな」など、鈴の体調を気にする声を呟く。
一方、欠席の理由が体調不良ではないことを知っている黒斗は、他人事のようにクラスメートの声をボンヤリと聞いていた。
ふと、同じように事情を知っている大神の反応が気になり、佐々木がよそ見をしている間に振り向いて様子を伺った。
大神の顔を見た黒斗は、己の目を一瞬疑った。
いつも感情を面に出さない大神が笑っていた。満面の笑顔で。
笑っている理由は分からない。
だが、その笑顔はまるで鈴の不幸を面白がっているように見えた。
頭に血が上り、立ち上がって大神をぶん殴りたくなるような衝動に駆られるが、唇を噛んで怒りを抑える。
(……落ち着け。俺は死神だ……死神に人間らしい感情など必要ない)
前を向き直し、額に手を当てて気持ちを落ち着ける。
(あいつを見ていると感情の制御が効きにくくなる……たかが人間相手に何故……)
黒斗の自問に答える声は、無い。