シルビア
「肩貸して、」
「……少しだけなら」
「ありがと。……凛花の匂い、いい匂い。落ち着く」
ふざけているようなその言い方。けれど言葉に先ほどまでの覇気はなく、甘えるように私の肩に頭を乗せ寄りかかった。
……望の、匂い。
お気に入りのシャンプーの匂い。あの頃の、ままなんだ。
じんわりと伝う熱と、寄りかかる体の軽さ。
それらを感じて、こうして私はまたバカみたいに期待する。
「……ねぇ、聞いてもいい?」
「ん?なに?」
「誕生日にくれた……花の意味」
ぼそ、とつぶやけば、平日の公園を歩く人々はこちらに目をとめることもなく歩いていく。
そんな景色に、さぁ、と吹いた少し冷たい風。
「そのままだよ。赤いバラは、『あなたを愛してる』。その葉は『幸福を祈る』」
「……なによ、それ。それじゃまるで、人任せにするみたい」
「……うん。いつか誰かと一緒になる、凛花の幸せを、祈ってる」
いつか私が、他の誰かと一緒になる幸せを
あの花に込めて
「……そう、」
情けない。そのたった一言で、また泣きそうになってる。
分かっていた事実を、ひとつ確認しただけ。それだけで、それ以上のことはもう聞けない。
泣きたいけど泣けない。知りたいけど、問い詰めることも出来ない。
穏やかな空の下、こんなにも近くにいるのに。
誰よりも、距離は遠い。