シルビア
家から会社へ向かうべく歩くのは、これまでと違う道。
かれこれもう10年近く住んでいる八王子の自宅から、今度の会社のある新宿までは30分ちょっとと通勤距離は少し遠くなってしまったけれど、まぁ仕方がない。
「……相変わらず大きいビルだなぁ」
駅から歩いて来た先に建つ、先日も来たばかりの大きなオフィスビル。
それを見上げて、ため息とともに一言が漏れた。
そう、無事引越しや事務的な手続きも終え、今日から私含め元Lamiaの社員である皆は『ネクサス・ティーン アクセサリー事業部』という部署の名の下仕事をすることとなる。
人の多い街を歩くのも、立派なビルに入ることも、まだ慣れない。
それよりなにより、元彼氏と一緒の会社で仕事だなんて不安でしかない。
望が突然現れたことにも、揺らいだ自分のこころにも驚いた。けど、どうしたって現状は変わらないし、割り切って仕事に励むしかないよね、うん。
……よし。
大きく息を吸い込むと、今日もピッタリとした細身のスキニーパンツと黒いヒールの足元で、建物へと踏み込んだ。