ユウウコララマハイル
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ランチタイムが終わった厨房は松本とカケルのふたりきりだ。
ケーキ類はすぐに出せる状態にあるため、複雑な構造のパフェ以外に真智にお呼びがかかることはない。
真智は二階でマスターの子供たちと、無表情で遊んでいるはずだ。


松本はスモークサンドを作るためのベーグルをオーブントースターで軽く焼いている。
ピークが過ぎた厨房は時間の流れが緩やかで、トースターが動いている鈍い音とカケルが洗う食器が重なる音の二種類しかない。


カケルは作業をしながら、トースターを見詰める松本の横顔をぼんやり眺めた。
ショートカットで柔らかい黒髪。
言葉数は比較的少ないけれど、細やかな気配りと的確な言葉を持っている人。
しかし意外と中身は、強情だったりする。


マスターは松本が結婚することを知っているのだろうか。


マスターは松本の七つ離れた兄になる。
ふたりの両親は他県に移り住んでいて、松本はここから数分もかからないところでひとり暮らしをしている。
ふたりは一緒に仕事をしているくらいだから険悪というほどではないけれど、カケルはあまりふたりが親しく話しているところを見たことがない。
ふたりを仲介しているのは真智とマスターの奥さんに違いないと思っている。


「カケル、注文入ったぞ。ヨーグルトムースひとつとココナッツミルクプリンひとつ、Bテーブルに」


ホールから顔を出したマスターが注文を言いつける。
カケルは冷蔵庫から可愛らしく盛りつけされたデザートを皿の上に乗せて運んでいく。
「お待たせしました」と注文したお客さんの前にひとつずつ置いていく。


「カケル、レモンパイひとつ。こっちに」


マスターはカウンター越しにアイス珈琲を手渡している。
その相手は広瀬だ。
品物を並べ終えたのだろう。
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