ユウウコララマハイル
事故を目撃したナツミは両親にも同級生にも、「ラッキーだね」と言われた。
広瀬くんのことは残念だったけれど、あと少し早かったらナツミちゃんも巻き込まれていたかもしれないわね。


これがラッキーなわけがないじゃないか。
人ひとりが重篤な怪我をしているんだぞ。


もしかしたら周囲はそんな心持ちでいたナツミの心を和らげるために声をかけてくれたのかもしれない。
しかしその気遣いは、さらに心に深い傷を負わせるだけだ。
なぜそのことに気づかない。
「ラッキー」は絶対にこういうことに使う言葉ではない。
もっと日常で使うべき言葉だ。
今日の天気は晴れている、ラッキー。
今日は朝から機嫌が良い、ラッキー。
「ラッキー」は軽々しく言えてこそ、意味ある言葉なのだ。


その後広瀬はどんな事情があったのか察せられないが、病院を転院してナツミが住んでいた場所からも、周囲の記憶からも消えていった。
ナツミも今ではふとした瞬間しか思い出さない。


そんな広瀬と同じような外見をしている古沢が、目の前にいる。


どんな因果が自分にあるのだろう。


もしかしたら広瀬と境遇まで似ているのかもしれない。
古沢のことなんて今までまったく興味がなかったが、知りたくなる。


もし、同じだったら。
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