ユウウコララマハイル
中村の部屋に入ると相変わらずの乱雑さで一瞬立ちすくむ。


「開いた口が塞がらないっていうのは、まさにこういうことだな」


ベッドの上にも衣類が積み重なり、床は雑誌とコミックで足の踏み場がなく、カケルが部屋に踏み入れただけでどこかで雪崩のような音がする。
クローゼットを開けると自分に向かって単行本が降ってきた。
少し前にカケルが片づけた痕跡はひとつも残っていない。


そんな劣悪な環境の中で、机の上だけが不自然に綺麗になっていた。
綺麗というより、不必要な物を全て床に落としましたといった有様だけれど。


机の上にあったのは、ぬいぐるみの背中につけてあった天使の羽根だった。
本来ならぬいぐるみではなく、カケルがつけるためにあるものだ。
その天使の羽根が、密封できる袋の中に防虫剤と一緒に入っている。
そしてもうひとつ、中村が後生大事にしているおまもりもあった。
それを手にとって見ると以前修正した反対側の布が破れていて中身が出てきた。
その板もふたつに割れてしまっている。


そういえば、綺麗にする約束をしていたな。


カケルは予定を変更する。
コミックは中村と一緒に暮らす限り、いつでも読める。


カケルは机の引き出しを漁って紙とペンを取り出し、「もらっといてやる」と伝言を残す。
そして天使の羽根と交換するように置いた。
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