気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
(あ、いけない、落ち込んでなんかいられないんだわ。今日も仕事をするつもりでいかないと。相手はあのつかみ所のない御曹司なんだから)

 凜香は軽く両頬を叩いて気持ちを奮い立たせた。

 透也の目的が何なのかはよくわからないが、デートを凜香が仕切れば、口止め料として高額な買い物や食事を要求されずに済むはずだ。せっかくの休日なのに、凜香と出かけたら仕事の延長でつまらない。そう思わせて、透也に二度とちょっかいを出されないようにしなければ。

 決意も新たに家を出て、電車を乗り継ぎ、大阪府の郊外に向かった。そこに五歳年上の姉の涼香(りょうか)とその夫の康人(やすと)、双子の子どもが暮らす家があるのだ。到着すると、昨晩頼んでおいた通り、姉のワインレッドのコンパクトカーを借りた。

(コンパクトカーだけど、色が大人っぽいしね)

「凜香、気をつけてね」
「うん、ありがとう。明日の朝返しに来るね」

 凜香は心配顔の姉に手を振って、アクセルを踏んだ。ナビに従い、昨日教えてもらった透也のマンションへと向かう。慎重すぎる運転で後続車両に次々と追い越されながら、一時間半かかって到着したのは、大阪市内中心部にある高級マンション。ブレスウォッチを見ると、時刻は十一時五分前だ。
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