気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 透也は熱したフライパンにオリーブオイルを敷いて、チキンを並べた。パチパチと小気味いい音を聞きながら、凜香を熱っぽく見つめてみる。

「俺は特別な女の子のためにしか料理しない」

 その特別な口説き文句もクール・ビューティの心には響かないらしく、彼女は小さく肩をすくめた。

「あなたの言う女の子っていくつくらいなの? 私、女の子って言葉を聞くと、どうしても姪の顔が思い浮かんじゃって」

(それって俺がロリコンってことか?)

 透也は首を振った。彼の知っているほかの女なら、ここまで来た時点ですでに落ちているはずなのに、凜香はどうも扱いにくい。

 透也はトングを使ってチキンをひっくり返した。皮にはいい焼き色がついている。

「上手ね。皮がちゃんとカリッと焼けてる」

 凜香が感心したように言った。透也はいたずらっぽく言う。

「惚れ直した?」
「最初から惚れてないから」

 凜香の返事に透也は肩を落とした。それでも、対面式キッチンの向こうから透也の手元を熱心に見ている様子は、普段のつんとすました印象の彼女とは一八〇度違ってかわいらしいくらいだ。透也が見ているのに気づいて、凜香が彼を見て言う。
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