気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
「な、に?」

 身動きできないほどの距離で透也が言う。

「もう一つ教えてほしいことがある」

 目の前の透也の顔から笑みは消えていた。彼の視線は痛いほどまっすぐだ。

「何なの?」
「……屋上の男が誰なのか教えてほしい」
「は?」

 凜香の発した声を聞いて、透也の顔が切なげにゆがんだ。

「誰なのか教えてくれないなら、今から凜香にキスをする」
「ちょっと待って」
「俺が凜香を諦めてもいいと思えるほどの男なら、俺は潔く凜香を諦める。でも、そうじゃないなら……」

 透也の顔がさらに近づき、瞳に熱情が浮かぶ。

「教えるも何も……意味がわからない」
「屋上で金曜日にされてただろ。凜香にあんな声を出させたその相手だよ」
「相手って……」

 凜香は一度瞬きをした。だが、透也の表情は変わらない。

「そいつの名前、言えないんだ。そこまでしてかばいたい相手?」
「かばってなんか……」
「付き合ってないんだろ? 既婚者?」
「だから、違うの」
「誰にもバラさないって約束してもダメ?」
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