Darkness~暗黒夢~
 月の滴のような声が微かに細い空間に響いた。解放されたシルクの黒髪がゆらゆらと舞い、雪のような白い肌に月光が滑り落ちる。そして、剣の身体を満たす小宇宙。やがて、舞の唇から長く放たれた吐息が、終焉を告げた。




「これ」

 黒い波間をしなやかに滑る細い腕。ブラインドの隙間から差し込む幾筋もの月明かりの中、剣はベッドからソファへと長い腕を伸ばし、バッグから小さな箱を取り出して、左胸に軽く頭を乗せて寄り添っている舞にそっと差し出した。

「……何?」

「……開けて」

 剣の言葉に黒真珠のような瞳をくるりと動かし、箱を手に取って舞が上体を起こす。剣は舞の方へ寝返り、細く小さく動く美しい指先を見つめた。

「綺麗……」

 箱を開けた舞が吐息と共にそう呟いて微笑する。それは、剣が舞をイメージして作った、ゴールドのアンクレットだった。

「六月生まれって言ってたろ? 過ぎちゃったけど……」

「ありがとう」

 剣の言葉に舞がキラキラと瞳を輝かせる。剣は舞の手からそっとアンクレットを取り上げると舞の側を離れ、足元に移動し、黒いシーツから細く美しい右足首を引き出し、アンクレットを装着した。

「似合うよ」

 そう言って、剣が舞の足の甲に静かにキスを捧げる。舞は恥ずかしそうにはにかみ、側に戻ってきた剣の胸に頬を埋めた。

「ねぇ」

「ん?」

「今度の撮影の時、付けててもいい?」

「ああ」

「本当に素敵」

 シーツからのぞく足首を見て舞が瞳を潤ませる。剣は包み込むように舞を抱き締め、そっと闇に身を沈めた。




 相変わらず、人工的な光のない部屋で、剣の素肌を、シルバーの月光が包んでいる。グラスの中のロックアイスは全て溶け、ストレートだったブランデーを温い水割りに変えていた。

 この部屋で、何度も何度も愛し合った二つの身体。部屋の中には、既に舞の香りが溢れている。

 あの後、すぐだったよな……。
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