Darkness~暗黒夢~
栄光の中のダイヤモンドダスト
 太陽光が最大限の威力で北半球を照らす灼熱の時期。使用されなくなった衛星たちが宛もなくただよう漆黒の空間の中、蒼く回る地球。その中の小さな島国の、また小さな街で、剣からプレゼントされたアンクレットを身につけた舞が表紙を飾る雑誌が、発売された。

 出逢った頃ば無名に近かった舞は交際直後、某化粧品会社のキャンペーンガールに抜擢された事で注目を集め、その写真での、美しい右足首を飾るゴールドのアンクレットも印象的な美しさを放ち、舞の人気に便乗するように注目を集め、舞が専属モデルを勤める雑誌の出版社には、アンクレットについての問い合わせが殺到し始めていた。

「知り合いのデザイナーさんが、私をイメージして作ってくださった物なんです」

 雑誌のインタビューで、舞はそう言って微笑んだ。

 “知り合い”――。舞は照れ屋な剣を想い一貫してそう答えていたが、出版社側が、剣がデザインして作った事を正直に話していた為、雑誌が発売されてすぐ、剣の元へも仕事依頼や問い合わせ等が多くなり、少しずつ、名前が世に出始めた。

 泉に静かに水が満ちるように潤い始めた生活に、剣の暗く硬かった表情も少しずつ柔らかさを取り戻し始めた黄金色のある夕暮れ、突然、剣の前に“彼”が現れた。

 その日、珍しく仕事が早く切り上がり、オフで家にいる舞の元へと帰宅しようとしていた剣は、事務所の駐車場で聞き覚えのある声に呼び止められた。

 乾いた熱い風が、一気に湿気をまとう。剣の金色の髪に、その風がまとわりついた。

「剣……」

 久し振りに、直接、聴覚で受け止める、脳を貫く低音。車に乗り込もうとしていた剣は、一瞬その動きを止めた後、ゆっくり、声の方を振り返った。

 投げた視線の先に、一年ぶりの姿が映る。しかしその姿は、剣の想像していたものとは、かなり違っていた。

 姿を消す前からこけていた頬は更にこけ、顔色も悪く、どこか冴えない長身の男。気付けば最近、メディアや雑誌等での露出が減っていた。

「……何の用だ」

 低い声が、剣の声帯を震わせる。一年振りの言葉はまるで氷点のように辺りの空気を一気に冷やし、唇から放たれたブリザードがまるでダイヤモンドダストのように“彼”を包み込む。剣は、その冷えた氷の瞳で彼――神楽を見据えていた。

「……探したよ。前の事務所は引き払われてたから……」突き刺さる痛い視線に、何から話せばいいのか判らないと言った口調で、伏し目がちに神楽がそう返してくる。しかし、剣に返答する気は微塵もなかった。

「剣、俺……」

「お前とはもう……関係ない」

 口を開き、何か言おうとした神楽の言葉を、ピシャリと剣の唇が遮断する。剣はそのまま神楽に背を向け、運転席のドアを開けた。
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