Darkness~暗黒夢~
剣の言葉に、青年――武藤(むとう)神楽はそれまでのどこか寂しげで硬かった表情を一変させ、無邪気な笑顔を剣に投げてよこした。
「お前の話術じゃどんなに頑張ったって契約なんて取れねーよ」
「……」
「会社(ここ)は俺とお前、二人で始めたんじゃねえか。俺は外回り、お前は製作。お互い得意分野だろ? それに――」
神楽の言葉に剣が申し訳なさそうな眼をする。神楽はスラッと伸びた脚で玄関に向かいながら、肩越しに剣を振り返った。
「俺のこの"神楽"って名前、かなり外回り向きなんだぜ?」
靴べらを使って革靴に足を入れ、一瞬、神楽が真顔で剣を見る。そのスラリとした美しい立ち姿に、剣は思わず息を止めた。
「無理……すんなよ」
痩せたな……。
「判ってるって! お前のバックグラウンドもしっかり使ってるから」
心配する剣に無邪気な笑顔のまま、ドアを開けて神楽が事務所を出て行く。大学を卒業して二年。額で飾られた、学生時代のコンテスト最優秀賞受賞を記した賞状の白さが、やけに眩しく剣の瞳に映る。それは――まだ剣が舞と出逢う前の、ある夏の昼下がりだった――。
グラスの中で氷が鳴った。
琥珀色の海に浮かんでいたロックアイスが、まるで遠く凍て付く白い海で、春の訪れと共に溶け出した氷河の如く、ゆっくりとその存在を海中に還してゆく。剣はその影のある憂いを帯びた瞳を再び闇に沈めた。
あれ?
神楽が再び外回り仁出て数時間護、夜の九時を回り、帰宅する為デスクを片付けていた剣は、引き出しに大切にしまっておいたはずのデザイン画がない事に気付いた。
おかしいな。
几帳面な剣の机の中は常に整理され、一目でどこに何があるのか判るようになっている。近く開催されるデザインコンテストに出品する為のデザイン画の完成版を、昨日ここに入れた記憶が確かにあるのに、そのあるべき場所にあるべき物がない。
一体どこに。心臓がトクトクと、焦りの色を表し始める。提出期限が一週間後に迫っているそのコンテストは、業界では誰もが知る、全国に店舗を構える有名店主催のもので、最優秀賞受賞者には、その店専属デザイナーとしての道が約束されていた。
プレッシャーはあるが、業界大手の専属となれば、ある程度の収入も見込め、頑張れば名を売る事もできる。必死に外回りを頑張ってくれている神楽の為にも、剣はこのコンテストにかけていた。
やばいっ! 何としても見つけないと!!
「お前の話術じゃどんなに頑張ったって契約なんて取れねーよ」
「……」
「会社(ここ)は俺とお前、二人で始めたんじゃねえか。俺は外回り、お前は製作。お互い得意分野だろ? それに――」
神楽の言葉に剣が申し訳なさそうな眼をする。神楽はスラッと伸びた脚で玄関に向かいながら、肩越しに剣を振り返った。
「俺のこの"神楽"って名前、かなり外回り向きなんだぜ?」
靴べらを使って革靴に足を入れ、一瞬、神楽が真顔で剣を見る。そのスラリとした美しい立ち姿に、剣は思わず息を止めた。
「無理……すんなよ」
痩せたな……。
「判ってるって! お前のバックグラウンドもしっかり使ってるから」
心配する剣に無邪気な笑顔のまま、ドアを開けて神楽が事務所を出て行く。大学を卒業して二年。額で飾られた、学生時代のコンテスト最優秀賞受賞を記した賞状の白さが、やけに眩しく剣の瞳に映る。それは――まだ剣が舞と出逢う前の、ある夏の昼下がりだった――。
グラスの中で氷が鳴った。
琥珀色の海に浮かんでいたロックアイスが、まるで遠く凍て付く白い海で、春の訪れと共に溶け出した氷河の如く、ゆっくりとその存在を海中に還してゆく。剣はその影のある憂いを帯びた瞳を再び闇に沈めた。
あれ?
神楽が再び外回り仁出て数時間護、夜の九時を回り、帰宅する為デスクを片付けていた剣は、引き出しに大切にしまっておいたはずのデザイン画がない事に気付いた。
おかしいな。
几帳面な剣の机の中は常に整理され、一目でどこに何があるのか判るようになっている。近く開催されるデザインコンテストに出品する為のデザイン画の完成版を、昨日ここに入れた記憶が確かにあるのに、そのあるべき場所にあるべき物がない。
一体どこに。心臓がトクトクと、焦りの色を表し始める。提出期限が一週間後に迫っているそのコンテストは、業界では誰もが知る、全国に店舗を構える有名店主催のもので、最優秀賞受賞者には、その店専属デザイナーとしての道が約束されていた。
プレッシャーはあるが、業界大手の専属となれば、ある程度の収入も見込め、頑張れば名を売る事もできる。必死に外回りを頑張ってくれている神楽の為にも、剣はこのコンテストにかけていた。
やばいっ! 何としても見つけないと!!