恋愛ドクター“KJ”

負けない理由

 “池袋”は都内でも大きな街の一つだが、その在り方は、ハッキリ、東と西とで分けられる。
 サンシャイン60の存在を持ち出すまでもなく、池袋の繁華街は東口にある。そのため、“池袋”といえば、戦前から今日まで、ずっと東口を意味してきた。

 そんな常識を変化させる切っ掛けとなったのは、二十年ほど前、西口に芸術劇場が完成したことによる。
 劇場横のバス乗り場も整備され、アカ抜け、刻々と姿を変える噴水を設けた公園には、昼も夜も人が集まるようになった。
 『池袋ウエストゲートパーク』だ。

 その、池袋ウエストゲートパークを見下ろせるビル群の中の一つ、“林ビル”の4階のレストランに、二人が入った。
 KJ、アスカ、一也の三人が追いかけてきた男女の二人だ。

 「ねえ、どうするの‥‥。私たちも入るの‥‥」

 二人を尾行してきたものの、林ビルのエレベーターを前にしてアスカはたじろいだ。
 声もすっかり弱々しい。
 というのも、林ビルの雰囲気も、その4階にある“レストラン・奥の細道”にしても、高校生が入って行ける雰囲気ではなかったからだ。
 というより、無縁の空気が流れていた。
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