恋愛ドクター“KJ”

男と女

 「一也から聞いたんだけど、KJってジャンケンが強いんだって? 負けないんだって? 
 何だかあやしいわね。どうせトリックなんでしょうけどね‥‥」

 放課後だった。
 帰り支度を始めていたKJに、アスカが挑発的な言葉を投げかけた。
 その声は決して大きくない。が、二人を包む空気の異様さは、教室に残っていた全てのクラスメイトに伝播した。

 ≪アスカのやつ。何をする気だ?≫

 そう感じたのは一也だけではなかった。ことの成り行きを知らないものほど、いったい何が始まるのかと息を呑んだ。

 「うん、まあね。負けないよ」
 攻撃的なアスカとは対照的に、KJは表情も声も優しかった。
 大好きな彼女に微笑むような顔と口調だった。
 もっとも、その態度に特別な意味があるわけじゃない。KJにとっていつものことだ。

 “大人びている”と言えば間違っていない。
 “素直”と表現するなら、それも正しい。
 KJとは、そんな男の子だ。
 いつもやさしい口調で淡々と語り、感情を乱すことがない。

 “KJが怒ったのは前世が最後”

 そう言われれば誰もが信じるに違いなかった。
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