獅子王とあやめ姫
「どうした?」

ティグリスが尋ねる。

「いえ…。」

「殿下。早く中へ入りましょう。日が暮れてしまう。」

ここまで来てやっとフィストスが口を開いた。

そして彼の言う通り、夜の帳が降りてきつつあるのだった。


* * *


イーリスは人混みの中にいた。

輪を描くようにして立っている人々の真ん中に、若い男が1人血を流して倒れ、脇に呆然と1人の女と1人の男が立ち尽くしている。

不意に群衆の内の1人の男が叫んだ。

「その穢れた女を粛清しろ!」

周りの人々も便乗し、その声は膨れ上がるように大きくなっていく。

その時、呆然としていた男が我に返ったようになり、血のついた剣を振り上げる__。
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