都合のわるい女
「………とりあえず、電車もないし、夜道は危ねえから、泊まってけよ」



と、下手に出てみる。

タカハシはじとっとした目で俺を見上げ、それでも、履きかけた靴を脱いで、のろのろと部屋に戻った。



そしてそのままベッドに上がって、俺に背を向けて丸くなる。



「………タカハ」


「喋りかけんな、けだもの」


「………すんません」



頑なな背中に、俺はそれ以上なにも言えず、ベッドのかたわらに腰を下ろす。


すると、どすっ、と背中に衝撃がきた。


タカハシが寝転がったまま蹴りを食らわせてきたのだ。



「ってえな、なんだよ?」



どすどす、とさらに蹴られる。


どうやら女王様は、『あっちに行け』との仰せらしい。



俺は1メートルほど離れ、クッションを枕に、床に転がった。


静かに、夜が更けていった。




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