恋する淑女は、会議室で夢を見る
その場では何も言わなかった瀬波が
車にのると
「ここはM&Mに委託しているんですね」
と、言った。
真優は思い切って聞いてみた。
「…あの
M&Mってどういう会社なんですか?」
「ITセキュリティに特化したベンチャー企業です
確かCEOの白木氏は、弁護士の資格もお持ちだったのでは?」
「…はい
先輩は4年生の時に司法試験を合格しましたから」
瀬波はなるほどと言うように、軽く頷いた。
── そう…マー先輩は優秀な人だった。
起業したような噂は聞いていたが、
それがどんな業種のなんという会社なのか、真優は知らなかった。
… 随分変わったなぁ
視線を車の外に向けた真優は、
ついさっき廊下であった白木匡を、頭に浮かべていた。
真優が『マー先輩』と呼んでいた学生の頃、
サラサラと前に下ろしていた髪は、ビジネスマンらしく整髪料で後ろに流していた。
部下を従えて颯爽と歩く様は、スーツが似合う大人の男で
どこか優しすぎた面影は、
微笑んだ時の目尻に残るだけだった。
──マー先輩…