恋する淑女は、会議室で夢を見る


*…*...*...*...*




カチャカチャ


キーボードを叩く音が響き

enterキーを押したところで、
真優は一息ついた。

もうすぐ3時。
給湯室が混む前に珈琲をいれようと思いながら席を立とうとして
ふと思い出したように、引き出しからマー先輩の名刺を取り出してみた。

「・・・」

080から始まる手書きの数字が、
携帯電話の番号であることは真優にもわかる。








桐谷専務と自分の珈琲を淹れながら

――電話番号を教えてもらっても
多分かける機会はないだろう…

漠然とそんなことを思いながら
胸の奥がシクシクと疼いた。


その疼きは、忘れていた初恋の痛みを思い出したからだろうか?

それとも…
携帯電話の番号が、真優と付き合っていた頃とは変わっていたからだろうか…。





・・・




コンコン

「珈琲をお持ちしました」

「はい」


ガチャ

「失礼します」



いつもの場所に、そっと珈琲を置くと
いつものように
桐谷専務は
「ありがとう」
と答え、

不意に目が合った。



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