恋する淑女は、会議室で夢を見る

地下の駐車場で、真優が車に乗るのを見送ってから
桐谷遥人は自分の車に乗った。



一挙手一投足、全てが紳士だった。


それは、前回真優を送ってくれた時にも感じたことだ。


白木匡がガサツという訳ではないが
桐谷遥人は何か根本的に違うように思える。

エレベーターから先に下りるよう促す仕草や
腕時計を見るさりげない動きの一つひとつまで、その場の空気をも香り立つような優雅なものにする。


昨日今日で真似できるものではない。

それが生まれついての環境が作り出す所作というものなのだろう…。




『無理を通しても
 所詮、徒花だ』

エレベーターを下りる前に、
真っ直ぐ前を見たまま、桐谷遥人はそう言った。


徒花(あだばな)…実を結ばずに散る花。


――お嬢さまと白石匡のことを言っているのだろうか…



お嬢さま…

ユキは桐谷遥人にヒシッとしがみつくようにして泣いていた真優を思い浮かべた。


――もしかして
 お嬢さまは桐谷さまのことが好きなんですか?


ユキは、真優の寝顔にそう聞いてみた。




...
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