恋する淑女は、会議室で夢を見る

『何に気づいたって言いたいの?』

『あなたのその感情は
 ”特別”なものだっていう事です』


『特別ってなんだよ
 手遅れって どういう意味なんだ?』

『その感情からは、もう逃れられないっていう意味ですよ』

『大げさ』
その時は一笑に付して相手にもしなかったが


酔った真優にキスをせがまれて
やわらかい唇に唇を重ねながら思った。


さすがに、深入りし過ぎたと。





瀬波に秘書の交代を匂わせた時
絶好のタイミングで、父である社長が帰国することになった。

ごく自然な形で青木真優を遠ざけるになって、
これで全てが解決すると胸を撫で下ろしたのである。



心配で、気になって仕方がないのは、ずっと一緒にいるからだ。

とある映画の中で精神科医が
”人は毎日見ているものを欲しがる”、と言っていたではないか。

視界から外して距離ができれば、このやっかいな心配性も落ち着くに違いない。




予定通り、
敢えて言わずとも瀬波の采配で、身近な仕事は全てケリーがこなし
青木真優とは話をする機会もなく、廊下を通る時に見かけるだけになった。



それでよかった。

全て予定通り順調で
鈴木翼の想像力に溢れた意味深な言葉は、思い過ごしだろう?
次に聞かれた時には笑ってやろうと思っていたのに…


廊下を通る度に視界の隅に映る青木真優が
PCに向かうか、デスクの書類に目を落としているその姿が、

やけに寂しそうに見えて…




―― ハァ…

ため息をつきながら、外に目をやると
ひとつのネオンサインが目についた。




―― シェイクスピアか…


遥人はネオンサインの文字を、心の中で反芻した。


Love like a shadow

  恋はまことに影法師… 
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