恋する淑女は、会議室で夢を見る

クスッと笑った桐谷遥人は、隣に置いた紙袋をチラリと見た。

紙袋の中には、赤いリボンが結ばれた箱があり、
その中には指輪が入っている。
去年宝石店をOPENしたLaLaにお願いして用意したのは、
内側にma chérieと刻んでもらった真優に似合いそうな可愛いリングだ。


――俺の顔を見たら、どんな風に驚くだろう

そして結婚の話だと知ったら、どんな顔をするだろう



珈琲の自動販売機で会ったあの時みたいに、驚いて茫然と立ち尽くす?




―― 真優…

     どうしてかな…




ある朝、リムジンの中から
気持ちよさそうに風を切り、自転車を走らせるOLが目についた。

器用に歩行者を避け
道で転んだ老婆を自転車から降りて助けていた。

そのOLがKIRITANIの中に入るのを見かけ、うちの社員だとわかったのはそれから数日後のことだ。


それ以来、毎朝のようにその姿を目にした。


化粧っ気のない善良で天真爛漫なその様子が、イライラと気持ちを逆なでた。

所詮は単なる無知で、軽蔑に値する浅はかな女だろう
そんな風に鼻で笑ったんだ。



思えばあの朝からずっと
 君を目で追っていた。



自転車にのって風を切る青木真優の揺れる髪や
朝陽で光った汗が眩しくて…


子供の頃、
 ヒーローになる夢を描いて心が躍ったことを思い出した。


個人よりも、桐谷遥人という言葉が先行して歩く
 この雁字搦めの世界で


君の笑顔が

  希望、そのものに見えたんだ…








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