残業しないで帰りたい!

親友の青山香奈が恋をした。

香奈は極端に奥手な子だと思う。24にもなって初恋だなんて、遅すぎる。

私は香奈が恋をしたと聞いて、嬉しいような、寂しいような気持ちになった。

本人は最初、それが恋だと気が付いてなくて、それなのに相手のオッサンのことを「王子様」とか言うから笑ってしまった。

とうとう香奈が恋をしたか……。

香奈はずっと純真なままだと思ってたのにな。
恋なんかしたら、きっとどんどん黒く染まってしまう。

やっぱり、……寂しい。

香奈とは小中高と同じ学校で、クラスもほぼ一緒だった。

中高は部活も一緒でホントに楽しかった。
のんびりおっとりした香奈は、世知辛い世の中を忘れさせてくれる私の癒しだった。

香奈と私が仲良くなったのは、背の順で並ぶ時に必ず一番後ろで一緒になったからだ。

私と香奈は子どもの頃から背がでかい。
二人でいると、ツインタワーなんて言われた。

中学に入ったら、当然二人ともバレー部やバスケ部から勧誘されたけれど、運動音痴の私は香奈を「一緒に吹奏楽部に入ろう!」と誘った。

香奈は運動もできるのに、快く私の誘いに乗って一緒に吹奏楽部に入ってくれた。それから私たちは高校卒業までずっと一緒に吹奏楽部だった。

私よりほんのちょっと背が高いからってユーフォニアム担当になった香奈。ユーフォは人気のある楽器だけど、香奈はそのありがたみがあまりわかっていないようだった。

ユーフォニアムを持つ香奈は、なかなか様になっていてかっこよかったのをよく覚えている。

私は背の高さとかは何も言われず、希望通りトランペットをやらせてもらえた。

実は私はトランペットに憧れて吹奏楽部に入った。

ジャズとかそういうかっこいい理由じゃなくて、アニメの主人公がトランペットで吹く曲が好きだったからだ。
香奈もあの曲は好きだったらしく、自主練の時に遊んであの曲を吹くといつも喜んでくれた。

茶色い瞳を細めてコロコロ笑う香奈は驚くほど純真で、そんな香奈を笑わせたくて何度もあの曲を吹いた。

その辺のミス○高とかより、純真無垢な香奈の方がずっとずっと可愛いと私は思っていた。
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