残業しないで帰りたい!

だから、頭を冷やして遠くから眺めるくらいにしておきなさい。

目を閉じて胸に手を置き、なだめるようにそう自分に言い聞かせた。

言い聞かせたけど……。

全然気持ちが落ち着かない。

いったい何本煙草を吸っただろう。

喫煙室の脱臭機に白い煙がスルスルと吸い込まれていく様子を意味もなく眺める。

なんだかなあ……。
もうダメなんだろうなー。

素直になって諦めるしかないんじゃないの?

俺、……好きになっちゃったんだよ。
もう、間違いないんだ。

誰かを好きになるなんて、一生ないと思ってたのに。ましてや一目惚れだなんて……。

それでも俺は……。

俺は、彼女に恋をしたんだ。

もう、前の自分には戻れない。
そこまでは理解した、というか諦めた。

うーん、頭がふわふわする。

とりあえず喫煙室を出て入社式に戻った。

幻だったらまだ良かったのに。
青山さんはちゃんとさっきと同じ場所に座っていた。

見てしまうと目が離せなくなる。
やっぱり可愛い……。

どんな子なのか知りたい。

近づきたい。
触りたい。

……?
コラコラ!
触っちゃダメなの!

それに、話してみたら案外イメージと違って落胆するかもしれないし。

話してみたら……?
あんな若い子と何を話すの?
何話したらいいの?

わからない……。
あーもう、どうしたらいいの?

これじゃあ中学生レベルだよ。
俺って偏差値低いなあ。

そんなことを考えながら、彼女を視界に入れたまま、耳が詰まったみたいにぼんやりと過ごした。
入社式が終わって新田に声をかけられても全然気がつかないくらい。

世界がひっくり返ってしまった日。
見える景色が突然変わってしまった日。

この日を境に俺の人生は大きく変わってしまったんだと思う。
< 94 / 259 >

この作品をシェア

pagetop