さくら


いつもと変わらない、穏やかな声。

桜子は混乱から抜け出せなくて、心のざわめきが不安をかき立てる。


心配をかけてはいけないと笑おうとするのに上手くいかない。ぎごちなく唇が動くだけ。


「・・・・・アホ。オレの前で無理に笑わんでええ」

「ーーー・・・・・!」


手を伸ばし、桜子の指先が志信のシャツを掴む。

志信の胸に顔を埋めて声もなく、泣くこともなく、ただ小さく震えながら必死に心を落ち着かそうとする桜子が志信にはたまらなかった。


今まで知らなかった、呼んだことすらなかった突然現れた『父』。


その動揺が志信には手に取るように分かる。


「桜子、大丈夫や」


緩く何度も頭を撫でる。


志信は真野の姿を中庭で見たときに一瞬で悟った。

未散の失踪と真野が全てを捨てて離島の診療所に行った時期が奇妙に重なること。

死を目前にした聡志が真野を呼び寄せたこと。


真野が桜子の父親ではないのか?

その結論に達するのは簡単だった。

あの頃の志信は子供で分からなかった。

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