さくら


志信が桜子の想いを知ればきっと苦悩することを桜子は知っているから・・・・・

志信の苦しむ姿を見るくらいなら、心をおし殺して生きていくことくらい耐えられる。

桜子はもう何十回もしてきた悲しい決心を新たにした。

「桜ちゃん、お昼、お蕎麦でもする?」
ウメの声で桜子がはっとする。

「そうですね。頂き物のニシンもあるし。院長先生にお蕎麦かおうどんかどっちにするか聞いてきます」

廊下を走って聡志のもとへ急ぐ桜子の後ろ姿を見ながらウメがぽそりと呟く。

「可哀想に・・・・・」

「ウメさん?」

「なんでもありません。さ、お蕎麦を湯掻こう」

怪訝そうに自分を見る志信をその場に残し、ウメはキッチンへ行ってしまった。
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