さくら
桜子は祈らずにはいられない。
どんな苦痛も悲しみもこの家の人たちに降りかからなければいい。その分をわたしが全部引き受けたっていいから。
「桜子?」
志信の手が頬を撫でる。
自分でも気付かないうちに涙が頬を濡らしていたらしい。
慌てて手の甲で拭う。
「ごめん・・・・・泣くつもりやないのに・・・・・」
止めようと思うのに後から後から溢れてくる。
志信が桜子の身体を抱きしめた。
一瞬 桜子の息が止まる。
「我慢し過ぎや。泣きたいときは泣いたらええ」
志信のシトラス系のコロンが抱かれた胸から仄かに香る。涙は止まるどころか一層流れ落ちる。
「しーちゃんーーーーー!」
無意識に昔の呼び方で志信を呼んでいた。