千年姫の幻想界

───
──
─


星祭りが間近に迫り、町中が賑わい準備に取りかかっている頃。


静かな和室の一角で、一人の少女が窓からその様子を眺めていた。


彼女の名前は“華”。

幻想界の町の一つ、“硝子町”に住む由緒正しい御家の娘だ。


町を上から眺める瞳は朱色。

白い顔には長い睫毛が影を落とし、閉じられた唇には笑みが浮かんでいる。


高い身分故滅多に外に出られないが、必死に頼み込み星祭りの日は自由に出歩かせてもらえる事となった。

無論人を従えて、だが。


毎日のように窓辺に座り、町の雰囲気を感じては近づく外出に心踊らせる。

星祭りの日を、この上なく楽しみにしていた。



そう、自分が姫に選ばれることを夢見て──


「ふふふっ。

どうしたら屋台を全てまわれるかしら……。
買った物は食べきれるかしら？」


──ではなく、屋台の事しか頭に無いらしい。

なんと500近い屋台を全てまわろうという計画をたてながら、効率の良い道を探して頭の中に地図を描く。


「七日あるから、一日に約七十軒……。

御行儀良く歩いていたら終わらないわ」


さすが、考え込む動作さえ優雅だが、そんな姿からは誰も想像しないであろう悩みだ。


「ああっそうだわ。屋台だけではなく舞台もあるのだわ。

制覇は無理そうね……」

スケジュールを練り直し、新たに“出し物”、と上書きしていく。


その時、廊下でシャランと高い音がした。